説明
◼️巻頭詩
きれいな断面 ―5
◼️序文
ほろほろと生まれ変わる(高橋文樹) ―15
◼️東大仏文時代 1998-2003
ぱるんちょ祭り [小説] ―24
『田園交響楽』研究 [評論] ―50
◼️東京でストラグル 2003-2010
Re:現代文 [テスト問題] ―88
Re:現代文解答例 [テスト解答] ―112
ていうかさ [小説] ―132
対話篇 [小説] ―136
救出 [小説] ―148
だるま落とす [小説] ―152
クロニック・ペイン(高橋文樹) [ノンフィクション] ―158
◼️福井永蟄居 2010-
ぱるんちょ巡礼記 [詩] ―186
ふたり [小説] ―248
ゆすらうめ鉱 [詩] ―254
時計 [小説] ―260
リバレイト [散文] ―266
ざくろ [エセー] ―270
幸福の回収 [小説] ―280
コール・ミー(高橋文樹) [ノンフィクション] ―286
◼️反出生主義 2013-
犯人 [小説] ―310
布告 [箴言集] ―322
最後の文学者 [インタビュー] ―360
◼️イノセントほろほろ 1990-1991
90m走 [作文] ―400
地球ファミリー [作文] ―402
雪とぼく [作文] ―404
五年生の思い出 [作文] ―406
◼️付録
書簡ほか ―410
略年譜 ―476
◼巻末詩
オプンティア ―494
編者による前書き 『心を壊すような(ハート・ブレイキング)』
「中原を理解することは私を理解することだ」という言葉を大岡昇平は自身の編纂した『中原中也詩集』に寄せている。私もそんな気分だ。『ぼくは君がなつかしい ほろほろ落花生全集』を理解することは、私を理解することであるし、破滅派を理解することでもある。この奇妙な名前を持つ文芸団体の魂のような部分が本書には書かれているのだ。
この本を世に問うにあたり、私は獣を野に放つような気持ちでいる。獣の入った檻の鍵をそっと開ける。寝息を立てて上下する獣の腹に耳を当て、その強こわい毛を頬に感じながら、獣の覚醒がほど近いことを確信する。私は鍵を開け放したまま、そっと檻を出る。足音を立てないように歩み去り、離れるにつれて走り出す。だんだん息が切れてきて、度を越したイタズラの結果が恐ろしくなってくる――そんな気分だ。この本を読んだ人がどうなってしまうのか、私には確信が持てない。単なる幸福や絶望を感じてほしいわけではない。本書の核心に触れた読者の魂が根底から揺さぶられ、どうしようもなく変わってしまうことを私は期待している。
本書を編纂するにあたって、どうしても入れたかった逸話が二つある。ロスジェネ世代の勝ち組・負け組をわける分岐点についてと、男性の性被害についてである。私はこの逸話について、いつか書かれるべきだと思っていたし、書き手として、その逸話を自身が書くことを夢見てきた。思いとどまったのは、それが他でもない彼自身の物語だったからだ。今回、ほろほろ落花生自身から代わりに書くことを許された。編者という立場には分不相応な紙幅を占めるノンフィクション二篇「クロニック・ペイン」と「コール・ミー」は、それぞれ私に取って、二〇年越しの文学的宿願である。
詩、小説、文学評論、箴言集アフォリズム、随筆、書簡といった様々な形式のテキストが本書には収められている。およそ一人の人間が残すことのできるテキストの種類としては、申し分のないバラエティだ。それらの多様なテキストには、やはり一貫性が、戯れに砕いた黒曜石オブシディアンのガラス質の刃やいばのような鋭さが、秘められている。本書の核心コアを――ほろほろ落花生という才能がその魂を搾り出すようにして紡いだ文学的半生を――私は読者の胸に刻みつけたい。本書にも引かれる“heartbreaking”という英語表現があるが、その言葉通り、私はあなたの心を破壊してしまいたいのだ。
文・高橋文樹
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